(仮称)品川駅西口地区A地区新築計画:トヨタ新東京本社ビルが変える都市スケールの計画を読み解く



品川駅西口(高輪口)の目の前で、都市のスケールを塗り替える巨大な建築が姿を現そうとしています。
かつてこの地に鎮座していた「シナガワグース(パシフィックホテル東京)」の解体が完了し、2026年現在は、高輪の台地から駅前へと続くダイナミックな高低差が剥き出しの更地となっています。しかし、この「広い空」は一時的なものに過ぎません。ここに立ち上がるのは、地上29階・延床面積約30万㎡超という圧倒的なボリュームを誇る「(仮称)品川駅西口地区A地区」です。単なる超高層オフィスビルではなく、トヨタ自動車が次世代モビリティ戦略の中枢を据える「新東京本社」として計画されているプロジェクトです。

今回は、公開された配置図やパースから読み取れる建築的な意図と、なぜトヨタがこの「品川・高輪」の地を選んだのかという戦略的背景について掘り下げてみたいと思います。

1. (仮称)品川駅西口地区A地区新築計画について

品川駅西口(高輪口)の目の前、かつて「シナガワグース」などがあったエリアで進むこの計画は、単なる建て替えを超えた「都市構造のアップデート」です。
本プロジェクトの最大の特徴は、30万㎡を超えるという国内屈指の巨大な延床面積を、あえて30階に満たない 地上29階 という構成で消化している点にあります。
一般的な超高層ビルが垂直方向への「ペンシル型」の積層を目指すのに対し、本作は1フロアあたりの面積(プレート)を極限まで大きく取った 「超メガフロア」 の積層を選択しています。これにより、単なる高層建築ではなく、都市の基盤そのものが隆起したかのような圧倒的な 「重厚なボリューム」 が形成されます。

項目 スペック(A地区) 備考
主要用途 事務所、ホテル、店舗、駐車場 ミクストユース型の超高層ビル
階数 / 高さ 地上29階、地下2階 / 約152m 稜線を意識したランドマーク性
敷地面積 / 延床面積 23,584㎡ / 311,802㎡ 圧倒的なボリュームとフロアプレート
竣工予定 2029年度(予定) リニア開業を見据えたタイムライン

(Tentative Name) Shinagawa Station West Exit District A Area New Construction Project: Deciphering the Urban-Scale Planning Transformed by Toyota's New Tokyo Headquarters Building
画像1:パース絵(北西側より品川駅方面)/京浜急行電鉄(KEIKYU)より 

配置図から読み解くポイント


(Tentative Name) Shinagawa Station West Exit District A Area New Construction Project: Deciphering the Urban-Scale Planning Transformed by Toyota's New Tokyo Headquarters Building
配置図/京浜急行電鉄(KEIKYU)より 
 今回の場所は配置図でいえばA地区に該当します。
注目すべきは、ビルの足元(低層部)の広がりです。配置図やパース絵を見ると、品川駅前の広場とシームレスに繋がる開放的な空間設計となっており、かつての閉鎖的な「ホテルの壁」が「街に開かれたインターフェース」へと変貌することが分かります。

デザインの意図

外装デザインは、世界的な建築設計事務所であるKPF(Kohn Pedersen Fox Associates)が担当し、設計を日本設計が手掛けています。
本プロジェクトは「Flow(流れ)」をコンセプトに掲げ、ガラスカーテンウォールの洗練された外装が、高輪の空に溶け込むような軽やかな表情を見せています。155mという高さがありながら、建物の平面形状を台形とし、角部に曲線(R)を採用することで、東京湾からの風の道を確保。さらにタワー低層部をスカートのように広げる「フレア形状」の大庇を設けることで、圧迫感を軽減する分節的なボリューム構成を実現しています。
このフレア形状は、雨風を防ぎ人々を迎え入れる機能性を持つだけでなく、積極的に施された壁面緑化とともに、高輪の自然と都市生活、そして品川駅という結節点を効果的に繋ぐ重要な役割を担っています。
(Tentative Name) Shinagawa Station West Exit District A Area New Construction Project: Deciphering the Urban-Scale Planning Transformed by Toyota's New Tokyo Headquarters Building
画像2:外観パース(品川駅側より)/京浜急行電鉄(KEIKYU)より 
 品川駅側からのビルの様子です。(画像2)
このパースが示す通り、2029年以降はこの空間がトヨタの次世代拠点として埋まります。坂道から見上げる視線が、空から「最先端の建築」へとシフトする過程の、まさにスタート地点に私たちは立っているのかもしれませんね。
(Tentative Name) Shinagawa Station West Exit District A Area New Construction Project: Deciphering the Urban-Scale Planning Transformed by Toyota's New Tokyo Headquarters Building
画像3:夜景パース/京浜急行電鉄(KEIKYU)より 
品川駅側からの夜景パースです。(画像3)
ライティングデザインは、東京スカイツリーなども手掛けたシリウスライティングオフィスが担当。演出には明確なストーリーがあり、品川駅側(南東)は「空へ上昇する光」で先進的な都市を、公園側(北西)は「大地へ広がる光」で豊かな自然を表現しています。低層部では樹木のライトアップなどが施され、来訪者が自然と歩きたくなるような「歩行者目線の光」が計画されています。
(Tentative Name) Shinagawa Station West Exit District A Area New Construction Project: Deciphering the Urban-Scale Planning Transformed by Toyota's New Tokyo Headquarters Building
画像4:広場/京浜急行電鉄(KEIKYU)より 
また、北側エリアには大規模なイベントを開催できる広場も整備されるようです。

2. 現地の様子:2026年春の記録

現在、現地は広大な更地が広がり、まさに「都市の断面」が剥き出しの状態です。
(Tentative Name) Shinagawa Station West Exit District A Area New Construction Project: Deciphering the Urban-Scale Planning Transformed by Toyota's New Tokyo Headquarters Building
写真1(更地の風景/筆者撮影
かつてのシナガワグースが姿を消したことで、高輪の台地と駅前低地を繋ぐ地形のダイナミズムが改めて視覚化されています。「東京坂道さんぽ」の記事でも触れた通り、この「広い空」を見上げられるのは今だけの特権かもしれません。

戦略的ポジショニング:なぜ「品川・高輪」なのか

トヨタ自動車が名古屋・豊田市の「城下町」から離れ、あえてこの地に新東京本社を構える理由は、単なる都心のオフィス確保ではないのかもしれません。以下に考えられることを上げてみました。

① スマートシティの実装実験場(Test Bed)

高輪ゲートウェイシティ(TAKANAWA GATEWAY CITY)を含めた周辺一帯は、日本最大級のスマートシティ実装エリアとなります。トヨタが掲げる「モビリティ・カンパニー」への変革において、街そのものをテストベッドとして活用するためには、その中心に物理的な拠点を置くことが不可欠です。

② リニアが生む「40分の近接性」

リニア中央新幹線が開通すれば、品川と名古屋はわずか40分で結ばれます。品川駅前のこの場所は、リニアの改札から「最も近いオフィス」の一つとなり、豊田市の本社・研究開発拠点と東京の中枢機能を、物理的な距離を超えてシームレスに統合する「中枢コネクタ」として機能します。

③ 断面構造による「界隈性」の再生

かつてのこの街区(シナガワグース)は、広大な敷地を擁しながらも、駅前の低地と高輪の台地を「法面(がけ)」や「擁壁」で分断し、周囲に対して背を向けた、いわば「都市の孤島」でした。
今回の再開発における最大のブレイクスルーは、この地形的な高低差を「障害」ではなく、立体的な「動線(Flow)」へと転換している点にあります。
・垂直方向の統合: A地区・B地区を跨いで整備される歩行者ネットワーク(デッキ)が、品川駅の改札レベルから柘榴坂の上部までをバリアフリーで直結します。
・「閉鎖」から「浸透」へ: これまでの「ホテルの壁」が消失し、多層的な商業施設や広場が配置されることで、駅を利用する人々が自然と坂道側へと吸い寄せられる、「浸透性の高い都市構造」へとアップデートされます。

単なるビルの建て替えではなく、地形がもたらしていた「分断」を、最新のモビリティ技術と建築設計によって「接続」へと書き換えられるかもしれない。これこそが、この巨大プロジェクトがもたらす真の「界隈性」の再生と言えるでしょう。

4. 最後に

地上29階、高さ152mというボリュームは、周辺環境への圧迫感という課題を抱える一方で、品川・高輪エリアに欠けていた「国際的なビジネス交流の核」をもたらします。2029年の竣工時、周辺の施設、はたまた坂道(柘榴坂)から見上げる景色はどう変わっているのか。建築の「完成」は、新たな街の物語の「開始」でもあります。
今後も「a&w log」では、この巨大なボリュームが街の歴史にどう影響していくのか、その計画を追い続けていきたいと思います。

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